この展開はじっくりと見守る価値がある。
5月22日、ホワイトハウスでは行政令の署名式が予定されていた。テーマは最先端AIモデルに対する政府の安全テストだ。大規模言語モデルが一般公開される前に、政府がセキュリティ上の脆弱性がないか確認するというもの。一見、理にかなっているように思えるだろう。銀行、電力網、重要インフラをAI駆動のサイバー攻撃から守るための措置だ。
しかし、その式典は中止された。わずか数時間前のことだ。
理由は内容に問題があったからでも、法的な論争があったからでもない。理由はただ一つ、AI企業のCEOたちが出席を拒否したからだ。
24時間前の通告、CEOたちが一斉に「ノー」
トランプ氏が通告したのはわずか24時間前だった。そして彼は、期待していた顔ぶれ――OpenAI、xAI、MetaのCEOたち――が来ないことを知った。
結果、式典は中止となった。
スケジュールを急遽調整し、すでに楕円形執務室(オーバルオフィス)へ向かう飛行機に乗っていたAI企業の幹部たちは、機内で連絡を受けた。「もう来なくていい」と。
ここには注目すべき権力のシグナルが表れている。
米国大統領がAIに関する行政令に署名するにあたり、業界のリーダーたちに出席して後押ししてほしいと望んだ。しかし業界リーダーたちは答えた。「行かない」。「行けない」のではなく、「行きたくない」のだ。
かつてなら想像もつかないことだ。ワシントンからの招待であれば、たとえ24時間前の通告でも、テック企業はこぞって飛びついたものだ。しかし、AI業界はもはや過去のテック業界ではない。
中止を裏で推し進めたのは誰か?
Semaforの報道によれば、OpenAIは実際には署名を「支持」していたという。しかし、xAI創設者のマスク氏とMetaのザッカーバーグCEOは、この行政令の「妨害」を支援し、トランプ氏に「中止」を促したと報じられている。
トランプ氏の前AI顧問であるデビッド・サックス氏(特別政府職員としての任期は3月に終了)も、署名延期を働きかける側に加わった。
マスク氏はX上でこれを否定し、「これはフェイクだ」と述べ、自身は「その行政令(EO)に何が書かれているか知らない」と主張した。
しかし、興味深い細部がある。xAIのS-1 IPO書類が公開されたばかりだが、それによるとGrokの米国AIユーザーにおける有料利用率はわずか0.174%だという。もしマスク氏が本当にAI規制に無関心なら、なぜ自社のIPO評価を損なう可能性のある書類で、Grokの苦戦ぶりをこれほど赤裸々に公開するのか?
考えられる説明はこうだ。彼は規制を望んでいないのではなく、ホワイトハウスが求める規制のあり方と、彼が望む規制のあり方が異なるだけなのだ。
90日対14日:核心となる対立は「時間」
The Informationの報道は、重要な対立点を浮き彫りにしている。政府はモデル公開の90日前に評価を行いたいと考えているのに対し、AIラボ側はわずか14日を求めているのだ。
その差は76日。
AI業界において、76日とは何を意味するのか。それはモデルの学習からデプロイメントまでの全サイクルに相当する。競合他社にバージョン丸ごと1つ先行される期間だ。投資家の忍耐が尽きるタイムウィンドウでもある。
AI企業の論理は明確だ。90日間の政府審査は、製品上市のタイミングが完全にコントロール不能になることを意味する。14日ならギリギリ受け入れられる――少なくとも開発イテレーションのペースを維持できるからだ。
政府側の論理もまた明確だ。「あなたのモデルが国家安全保障上のリスクを引き起こす可能性があると言うのに、チェックに2週間しかくれないのか?」
双方に理はある。だが、どちらも譲歩する気はない。
トランプ氏の発言変更:「安全テスト」から「イノベーションを阻害したくない」へ
署名中止後、トランプ氏は記者に対し、署名を見送ったのは「一部の内容が気に入らないからだ」と語った。そして、重要な一言を付け加えた。
「私は中国や他のすべての国より先行している。この優位性を阻害するようなことは、何もしたくない」
これは180度の方向転換だ。
数週間前まで、彼の政権はAIモデルの自主的なテストと審査の範囲拡大を推進していた。きっかけは、Anthropicが最新モデル「Mythos」のサイバーセキュリティリスクを指摘したことだ。政府の計画は、より多くの企業に自主的な政府テストを受けさせることだった。
今や同じ政府がこう言うのだ。「テストはイノベーションを阻害する可能性がある」と。
この転換は、データが変わったからでも、リスク評価が変わったからでもない。CEOたちが来なかったからだ。
より大きな構図:中国がAIガバナンスで先行している可能性
アジア・ソサエティ政策研究所のリジー・C・リー氏は、南華早報のインタビューで次のように述べている。引用に値する発言だ。
「AI競争の裏には、『独立しており、おそらくより重要なもう一つの競争』が存在する。それは、強力なAIをイノベーションを扼殺せずにいかにガバナンスするかという競争だ」
同氏によれば、中国はこの競争でわずかに先行している可能性があるという。
これは中国のAIモデルが米国より優れているという意味ではない。中国の規制プロセスが「著しく加速している」ということだ。4月、北京は国内AI企業に内部「AI倫理審査委員会」の設置を求める新規則を公布した。5月には、国務院が「AIガバナンスの整備とAI健全発展の加速に向けた包括的立法」を2026年の立法作業計画に盛り込んだ。
一方米国では、対立は両党間だけでなく、トランプ陣営内部にも存在する。The Informationの報道によれば、サックス氏のAI顧問任期が突然終了して以来、ホワイトハウスのAIリーダーシップ構造に「権力の空白」が生じているという。
私の見解
この出来事の真の意義は「トランプ氏が行政令を中止した」という事実そのものにあるのではない。それは、AI業界が大統領のアジェンダを阻止できるほどの交渉力を既に手にしているという点にある。
これはロビー活動ではない。ロビー活動とは、ワシントンへ赴き、オフィスで議員たちと条文について議論することだ。これは「私が出席しなければ、あなたは署名しない」という構図だ。
1社の欠席が大統領に署名式典の中止を決断させる時代において、その企業(そして業界)の権力は、大多数の認識を超えている。
これはAI業界が無制限な自己規制を許されるべきだと言っているのではない。むしろ、あらゆる有効なAIガバナンス枠組みが考慮すべき現実がある。それは、AI企業の力があまりにも強大であり、政府がそれらと深く協力せずにルールを策定することは不可能だという事実だ。
90日と14日の対立はいずれ妥協点を見つけるだろう。しかし、権力構造の変化が逆行することはない。
AI業界はもはや「規制される対象」ではない。交渉テーブルに着く当事者だ。しかも、極めて大きな切り札として。
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